高齢者の金銭管理の工夫10項目

 

概要

 いわゆる余生と言われる30年間は心身の変化が大きい。だんだんと、身体に故障が出てきて、遠距離の外出が難しくなってくる。物忘れや勘違いも増えてくる。詐欺や窃盗にあう可能性もある。そして、万が一の場合には、遺族に十分な説明や引き継ぎもできないまま、去らねばならない可能性もある。
 こういったことを考えて、高齢者は、預金や資産関係の管理を単純明快にしておくことが、自分のためにも、遺族のためにも良いのではないか。

自宅に近い金融機関に生活用の口座を持つ

 加齢により、多少、外出が不自由になったからと言っても、「通帳と印鑑を渡して預金を引き出してもらう、振り込みをしてもらう」、「キャッシュカードと暗証番号を渡して預金を引き出してもらう」などという用件は、誰にでも頼めることではない。相手側も嫌がると思う。

 もし、適任者がいたとしても、例えば、その人に「今すぐ」とか、「今日中に」と言っても、無理な場合が多いだろう。先方も都合がある。かといって、インターネットバンキングなどは、人によっては操作が難しいし、振込なら良いが、現金が必要な場合には役に立たない。

 そこで、既に、多くの人がそうしていると思うが、手順としては、まずは、身近な銀行・農協・ゆうちょ銀行・信用金庫など、何とか、自分で足を運べる最寄りの金融機関」で、基本となる生活費、年金の受け入れの口座を持っておくことが良い。必ず、キャッシュカードも作っておく。

 金銭の関係は、いざとなったら、自分でやらなければならない。しかし、今後、運転できなくなったり、足腰が不自由になるかもしれない。日常的には、近くにコンビニなどがあれば、キャッシュカードで、小口の現金等の引き出しや振込もできる。ただし、老化が進んだ場合、大きな金額を扱う場合、定期預金などの何かの手続きをする場合等は、やはり、自宅に近い金融機関が安心だ。

 やはり、生活用の口座は、最寄りの金融機関の支店に持つことが良い。そこが、歩いていけない距離だとしても、近距離ならば、場合によっては、タクシーで行ったり、寸志で近所の誰かの車を頼んで往復するという作戦を使える。少なくとも、退職前の勤務先付近の銀行や支店のままでは、必ず不便になる。 

総合口座にしておき、自動支払いや自動振替サービスを活用

 自宅に近い金融機関は、光熱水費の支払い、生活費の引き出し、年金の受け取りを行うメインの生活費の口座とする。臨時・緊急の出費や残高不足に備えて、その口座には定期預金を総合口座にしておく。

 また、公共料金などは、支払の手間とリスクを避けるため、できるだけ、現金取引を減らす。たとえば、光熱水費などの公共料金、税金、新聞代、各種税金などの反復的なものは、上記の口座からできるだけ、自動支払いや自動振替サービスにしてもらう。手数料は不要なので、手間が減るだけ得だ。支払漏れもなくなるし、預金通帳に記録にも残る。

 また、家屋の修繕や設備の更新など、臨時に大金を支払う場合は、現金ではなく、口座振込にしてもらえば、記録が残る。通帳の金額のそばに内容を記入しておけば、何の費用か思い出す。物忘れが進んで、後日、「誰かが勝手に大金を引き出した」と騒がなくても済む。

昔ながらの紙の預金通帳と印鑑でよい

 最近は、「実際の店舗を持たないネット銀行」を利用する人も増えてきた。また、「店舗のある既存の金融機関」でも、紙の通帳を発行しない「Web口座(無通帳口座)」を勧めている金融機関もある。また、「紙通帳利用手数料」として、1年に数百円を徴収する銀行もある。しかし、それでも、高齢者は、昔ながらの「紙の預金通帳と印鑑」の形で口座を管理した方が分かりやすいと思う。

 なぜならば、高齢者は、ほぼ必ず、騙された、取られた、知らない誰かがおろしたなど、「損をした方向での勘違い」、「変な思い込み」をするようになる。今後、自分も一層、物忘れや勘違いが進む可能性がある。紙の通帳を発行しない「Web口座(無通帳口座)」では、簡単には使途のメモなどはできない。家族も、状況を把握できないし、分かりにくい。

 ところが、昔ながらの紙の通帳ならば、引き出した金額の脇に使途や相手先などをメモしておけば、後日、何に使ったか忘れたときでも、紙の通帳でサッと確認できるので、思い出す。本人の老化が進んだ時点で家族(遺族)が見ても、口座の存在自体、取引の内容や使途、残高等が分かりやすい。必要ならば、記号を書いたり、丸を付けたりもできる。使用済みの通帳も記録として保管しておけば、使途を巡る相続人間の紛争、相続税の調査などの際にも使途の証拠として便利だ。

 また、振込なども安全だ。本来は、振込はATMやインターネットバンキングならば簡単で便利だが、今後、加齢が進んで、振込詐欺にあった場合や、間違ってしまった場合などに止めてくれる人がいない。振り込め詐欺が懸念される時代なので、高齢者が銀行窓口で大金を振り込もうとすると、あれこれと確認される。心配して、チェックしてくれているのだから、安全面で、ありがたいことであり、紙の通帳のメリットだ。なお、本当に必要な振込なのに、金融機関の窓口で理解されないで困る場合は、高齢者以外の家族を同伴するか、請求書と契約書など、相手方の確認、振込の根拠となる証拠を持参した方が話が早いかもしれない。

 スマホやパソコンの操作が得意でない場合は、今さら、インターネットバンキングなどを始めず、あえて、銀行窓口で口座振込や口座振替の対応してもらったらどうかと思う。

複数の金融機関に分ける

 いわゆるタンス預金をしている高齢者も多いらしいが、高齢者は、いつ何があるか分からない。明日、即日入院や救急車で搬送されることも、十分にありうる。その直後などはタンス預金は不用心だ。高齢者世帯を狙う詐欺、窃盗や強盗もいる。

 小口の現金はともかく、普段は使用しない予備的な老後資金は、預貯金にしておけば安心である。最近は、本人確認が厳しいので、通帳と印鑑があっても、なかなか他の者が引き出せないから、安全でもある。

 身近な金融機関で生活費や年金は扱ってもらうとしても、ひとつの金融機関だけに全財産を集めることは良くない。金融機関ごとに引き出しの限度額があるので、ある程度の現金や預金がある場合は、何割かは他の金融機関に総合口座で預けておいた方が良い。

主な理由
  〇システムの故障などで、その銀行だけ預金を引き出せない場合があること
  〇残高にかかわらず、金融機関ごとに引き出しの限度額が設定されていること
  〇振り込め詐欺や窃盗にあった場合に危険を分散できること
  〇他の土地に行ったときに、当該銀行カードを取扱えない可能性を軽減できること
  〇生活費の資金と、予備的な資金とを完全に区分できること 

通帳と印鑑は別々の金庫に保管する

 今後、より一層、高齢になると、家の中でも通帳や印鑑を紛失したり、忘れやすくなったり、勘違いすることも増える。物忘れや窃盗などに備えるため、あるいは、遺族のため、下記のような工夫をして「安全、かつ、単純明快に資産を管理すること」が必要だ。 

 高齢者の中には、1本の印鑑だけで、どの口座も届け出ている人がいる。間違わなくてよいかもしれないが、印鑑の紛失や破損などの場合には、急には、引き出せるところがなくなってしまう。他に、キャッシュカードなどもあるだろうが、できれば、銀行ごとに別々の印鑑を決めておく方が良い。

 その場合、どの銀行が、どの印鑑なのか分からなくなってしまう。今の通帳には、印影のページが無い。そこで、印鑑は1本ずつ「銀行名を書いた印章ケース」に入れて、ジップロックのような丈夫な透明袋にまとめた上で、通帳と印鑑は、別の金庫に保管する。印鑑にハチマキをして、銀行名を書いている人もいる。併せて、通帳の裏表紙の余白欄に押印しておくという手もある。

 「大事なものは2つの金庫に分けていれる」ということにしておけば、探す場所は限定される。あちこちを何日も探し回る手間とイライラを考えれば、金庫の開閉の手間は大したことはない。安全で安心で楽ではないか。

 当然、家族の印鑑とは混在しないように、透明袋を分けて氏名を表示することは必須だ。1回限りの作業だが、こういう面倒なことをやっておけば、自分が勘違いしたり、銀行の窓口でトラブルになったりするよりは楽だ。後日、遺族が探す場合にも、非常に助かる。

金庫の鍵とダイヤル番号メモは別々に保管する

 家庭用の金庫でも、「2種類の錠が付いているタイプ」と、「錠とダイヤル番号の組み合わせのタイプ」がある。また、たいてい、それぞれの錠に正副の鍵が付属している

 このため、「2種類の錠が付いているタイプ」の金庫の場合は、2種類の錠に、それぞれ正副の鍵がついているので、鍵は合計4本になる。しかし、面倒だからと言ってその鍵を一緒にしていたのでは意味がない。

 金庫に、「2種類の錠が付いているタイプ」ならば、それぞれの鍵は別の場所に保管する。「錠とダイヤル番号の組み合わせのタイプ」ならば、ダイヤル番号のメモと鍵とは別の場所に保管する。

 間違っても、鍵を金庫に入れてはいけない。また、金庫の扉にダイヤル番号を貼ったり、ダイヤルをテープで固定したりしてはいけない。

 なお、前述の「後見人的な、連帯保証人になってもらうべき信用できる人」がいる場合は、その人に、金庫の鍵の正副の副を預けておけば、紛失時に安心だ。

 なお、これから金庫を購入するのなら、高齢者は「2種類の錠が付いているタイプ(ダイヤルのない金庫)」が良い。ダイヤル式のような操作を覚えていなくても済むので、加齢によって物忘れが進み、老眼が進んだ場合に安心だ。

 また、可能ならば、2台の金庫自体も、それぞれ違う場所で隠せる場所に設置することが望ましい。購入時の運搬を思い出せば理解できると思うが、家庭用金庫ならば、丸ごと運搬できてしまうからだ。

口座や印鑑等の一覧表を作成しておく

 「金融機関名、口座番号、口座名義人、印影(印鑑)の一覧表」を作り、通帳と一緒に金庫に保管する。銀行、農協、証券会社、農協、漁協、ネット銀行、ネット証券、休眠口座なども含める。

 最も注意すべきは、通帳や印鑑のない取引だ。例えば、「電子マネー」、「ネット銀行」や「ネット証券」、「証書式など通帳のない預金」、「ビットコインなど電子的な投資商品」、「証書のない株式」などがある場合は、遺族にとって存在自体がわからない。

 仮に、存在がわかっても、遺族は暗証番号や引き出し方法、解約方法、問い合わせ先がわからない。高齢になれば、自分でさえ、わからなくなる可能性もある。

 基本的には、最小限に整理したうえで、残すものについては、IDやパスワード、金額、操作方法、解約方法、注意点等を遺族のために整理しておき、「万が一の際に見るべきファイル」として、金庫に残しておくべきである。この中には、スマホのパスワード、パソコンや各種ソフトウエア等々のパスワードも一緒に記載しておくべきだ。

日記兼金銭出納メモをつける

 どういうわけか、高齢者は、物が見つからないと、すぐに、「盗まれた」、「隠された」などと、自分が被害者の立場で文句を言い出す。

 財布の中身が足りない、メガネを盗まれたなどと言いだすこともあるが、自分が別の場所に置いたこと、何かにお金を使ったことを忘れている場合が多い。こういうことは、外出予定や電話連絡、来訪者などの行動に関してもある。

 そこで、日付が分かれている市販の年間手帳かスケジュール帳を用意し、手元の現金残高、買物の総額、電話の要件、来訪者、食べたもの、その他、生活メモなどを自分で簡単にメモするようにしたらどうかと思う。

 小型のポケット手帳では紛失しがちだし、老眼の人には記入欄が小さすぎる。できれば、大型のデスクダイアリーにして高齢者の自宅の定位置に据え置けば、紛失して「手帳を盗まれた」と言わなくなる。

 その都度、考えながら字を書くので、ボケ防止にもなりそうだし、何より、「残金が足りないから盗まれたらしい」などと言わなくなるのではないか。

 もちろん、法事や通院などの予定が入ったら、すぐに当該の日付に書き込んでしまえば、物忘れの対策にもなる。その手帳を見れば、身内の者がチェックすることもできる。スケジュール帳、日記、家計簿、備忘録を兼ねたスーパー手帳だ。

 スマホの日記アプリでも良いが、何かの拍子に全部消去される、スマホが故障する、家族が確認できないというデメリットがある。やはり、紙の手帳が安全だ。

今後は自分も忘れる可能性がある~家族にもわかるように

 高齢者は、明日にも何があるか分からない。金庫以外の家の中のどこかに隠した現金や金の延べ棒、宝石、金庫の鍵やダイヤル番号などは、死後、遺族さえ発見できないかもしれない。あるいは、特定の相続人が独り占めするかもしれない。

 ただし、自分も大事な物を隠した場所を忘れてしまう可能性もある。連想して思い出せるよう、「本人と遺族にだけ分かるような書き方」で、隠し場所のヒントをメモしておくことが望ましい。推理小説や宝島の地図のようで、楽しいのではないか。

 どんな貴重品を持っていても、いかに大金を持っていても、あの世に持っていくわけにはいかない。自分の望む形で後始末が進むよう、整理・共有しておく必要がある。そのためには、自分が持っている資産、隠している貴重品などを一覧表にしておき、万が一、明日、何かがあっても良いように準備すべきだ。

サブスク(定期払いのもの)を一覧にしておく

 近年は、ネットでの映画やPCソフトなど、あらゆる分野で、定期的・継続的な購入に結びつけるための戦略として、毎月払いなどのサブスク(サブスクリプション subscription)という定期払いの売り方が増えている。

 また、各種の積立、互助会的なもの、定期的に会費を徴収される会員権サービス、スマホ、光回線のようなもので、定期的に支払いが発生するサービスも同じだ。

 たとえ、1回あたりは少額であっても、解約するまで永遠に継続するので、総額が確定していないという点では、サブスクは分割払いよりも危険だ。しかも、数が増えると分からなくなる。どうかすれば、本人も忘れてしまう。

 自分が、いつ消えても良いように、毎月払い、毎年払い、定期的に発生する会費といったサブスクは、全部、一覧に整理し、減らした上で、家族や近親者に場所を伝えて安全な場所に保管しておくことが有効ではないか。

資産は遺族にもわかるように整理しておく
ローンやクレジットカードは整理