資産は遺族にもわかるように整理しておく

概要

 資産明細、金庫の鍵、銀行のパスワードなどを遺族にもわかるように整理しておけば、自分が忘れた場合、認知症になった場合、死亡した場合などに、家族(遺族)のためにも役に立つ。また、入院や老人ホーム入所の際は、連帯保証人が必要になる。留守中の支払や資産管理、遺体の引取先も任せることになる。日ごろから、特定の人を決めて、引継ぎを済ませておき、葬儀も含めて全面的に頼るしかない。

資産の関係は遺族がわかるようにしておく

 一般に、高齢者は、老後資金の準備や退職金、親からの遺産相続などで、多少の預金や固定資産、貴金属などを持っている人も多い。おそらく、こういった資産の明細や金庫の鍵の場所や番号、銀行のパスワードなどを家族にも、特には教えていない、あるいは、意図的に秘密にしている人が多いと思う。

 しかし、高齢になれば、誰でも物忘れや勘違いが増えてくる。5年後、10年後の自分は、認知症かもしれないし、心身や頭脳の働きが弱っているかもしれない。いかに元気でも、明日、脳内出血や心筋梗塞で意識がなくなるかもしれない。

 そこで、高齢になってからも、物忘れで困ったり、各種事務手続きについてのミスや手間を減らすよう、資産の明細や金庫の鍵の場所や番号、銀行のパスワードなど高齢者の資産は単純明快な管理や保管をしておくこと」が必須だ。これは、もの忘れが進んだ場合はもちろん、万が一の場合、遺族にもわかりやすいという効果もある。

 とりわけ、入院や老人ホーム入所の際に保証人になってくれる人には、全貌がわかるようにしておくべきだ。元気なうちに、下記のような整理と引き継ぎをしておかないと、急死や認知症発症といった場合には、本当に困ってしまう。

入院の際に保証人になってくれる人は誰か

 いかに、元気な高齢者でも、入院する際や老人ホームに入る際には、費用に関しては連帯保証人が必要になる。また、遺体の引き取りなど、さまざまな連絡先としての身元保証人が必要になる。「自分で、巨額の貯金を持っているから、連帯保証人兼身元保証人は不要」ということにはならない。

 連帯保証人は、支払いが滞ったら、たとえ自腹でも連帯して払う保証人という役割だから、事態の推移次第では、想定外の金額を実際に負担せざるを得ない場合がある。当該高齢者が死亡した場合は、遺産分割の割合にかかわらず、病院や老人ホーム関係の残債は連帯保証人あてに請求が来る。そのための連帯保証人なので当然なことだが、こういう連帯保証人の役割を喜んで引き受けてくれる人は、いない。保証人を頼む相手がいない場合は、有料で保証人を引き受ける各種団体や企業があるらしいが、病院や施設と相談する必要がある。

 通常は、長男や長女など、相続人の中の中心的な誰かが連帯保証人兼身元保証人(以下、「保証人」と表記)になるという場合が多いのではないかと思うが、入院費用や老人ホーム代の毎月の会計、衣類の届け物、面会なども、その保証人に頼むしかない。ところが、実際には、それだけでは済まない。

 保証人には、下記のような付随する仕事が回ってくる。独身の高齢者ならば、もちろんのこと、配偶者がいる場合でも、ともに高齢になっていることから、保証人となる者が中心になって担わざるを得ない。いずれも、保証人としての本来の仕事ではないが、「留守を任せる」と言われた者が、実質的な成年後見人のような立場で、やらざるを得ない場合が多い。高齢者本人の側からすれば、保証人となってくれる人は、非常に大事だ。

 保証人の役割は、費用の支払いだけではない。高齢者本人は、いずれ、意識も遠のいてくるし、外出はできないので、保証人に対して、病院や老人ホーム、市区町村役場から各種事務連絡や手続き等の依頼や指示が来る。

 施設によっても異なると思うが、介護認定審査の申請だとか、介護保険証の交換、インフルエンザ予防接種の承諾書等々である。

 さらに、保証人は、万が一の場合の、病院や老人ホームからの緊急連絡先、遺体の引取先にもならざるを得ない。

 病院や老人ホームに入った高齢者が一人暮らしだった場合は、長期に自宅を留守にするので、当該高齢者の兄弟や親戚、友人、近隣の人からも、保証人あてに連絡・照会や取次依頼等がある。必然的に保証人は、実質的に、代理人、成年後見人、窓口のような役割を兼ねて担うことになる。

 例えば、手術前の説明や誓約書、入院後の拘束の承諾書、介護認定審査を受ける際の家族等の立ち会い、署名捺印、自宅を留守にした後の建物や植木の管理、郵便物の処理、各種支払いや固定資産税等の納税、確定申告、留守中の親族の冠婚葬祭への代理出席・御霊前の支出、親戚付き合いなど、あらゆる用件も、おそらく、その保証人の役割になる。

 もちろん、最後は、葬式・納骨・法事、相続や相続税の申告もある。また、旧自宅には廃棄物の山が残っているが、それらの処理も、おそらく、保証人になった人が責任を負うことになる。

 入院や老人ホーム入所により、高齢者の自宅が急に空き家になる場合には、狙われるかもしれない。おそらく、保証人は空き家の管理も担うようになる。空き巣・窃盗犯だけでなく、他の相続人や鍵を持っている親族などが、留守中に入り込んで家探しする可能性もあるらしい。浮浪者が入り込んで勝手に住んでいたという例もあるという。

 高齢者本人が、これまでに誰に鍵を渡しているかにもよるが、この機会に、玄関や勝手口の錠を取り換えること、警備会社の留守宅サービスの導入、録画式の防犯カメラの設置、貴重品は他に持ち出しておくことなどの対策が有効だと思う。

 これらの手配も、やはり、保証人になった人がやらざるを得ない。高齢者本人の側から言えば、保証人の役割を負ってくれる人の確保と、日ごろから人間関係を構築しておくことが非常に大事ということになる。

もう、自宅には戻れないと覚悟して準備する

 言いにくい事だが、高齢者が長期入院する際や、老人ホームに入る際には、もう、自宅には戻れないかもしれないと覚悟して準備しておいた方が良い。「いったん、これで俗世間とは縁を切る」というつもりで整理し、万が一に備える必要がある。

 たとえば、自分の通帳と印鑑、実印、金庫の鍵、遺言、現金など、大事な物は、老人ホームや病院には持ち込めない。一人暮らしだった高齢者の場合は、家を空けた後の冠婚葬祭、各種支払い、事後処理を誰かに代行してもらう必要もある。いずれにしても、全財産を保証人に預けるしかない。

 以上の保証人の成年後見人的な役割は、なかなか、他人に頼めることではない。内容的にも、親戚の顔や名前も知らないような人に頼んでも、うまくいかない。とりわけ、日ごろ、同居していない場合には、保証人を引き受ける側にとっても、前述の様々な事務は、そう簡単な仕事ではない。

保証人との円満な関係を築いておく

 2024年5月の厚生労働省の推計によれば、2025年の認知症の高齢者は471万人であり、高齢者全体の12.9%(7.8人に1人)に達するという。さらに、2060年には17.7%(5.6人に1人)に達するという。

 単純計算すれば、2025年は、高齢者夫婦4世帯のうち1世帯は、夫婦の片方が認知症になる。2060年は、3世帯のうち1世帯は、夫婦の片方が認知症になる。現在でも、夫婦揃って認知症になっても、2人だけで暮らしている世帯もある。

 認知症にならない場合でも、高齢になれば、誰もが、他の病気、肢体不自由などになる。いずれ、「保証人(実質的な成年後見人のような者)」を見つけて、入院や老人ホームの関係の手続き、葬儀や相続まで頼らざるを得ない状況に至る。妙な強情を張らず、「特定の子供など、心から信頼できる人」を決めて、引継ぎを澄ませておき、死後のことも含めて、全面的に頼るしかない。

 高齢者になれば、明日、救急車で即日入院するかもしれない。そのためには、日ごろから保証人との意思疎通を図り、万が一の場合の対応方法や希望を依頼しておくなど、保証人になる人と円満な関係を築いておかないと、本当に困ることになる。

 また、相続人のために、あるいは、自分が物忘れや勘違いが進む場合も想定して、預貯金や不動産、現物資産等々の管理を単純明快に整理・管理しておくことが、自分の認知症対策としても、遺族の相続対策としても非常に大事な準備になる。

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