収入に見合った生活に転換を

 

概要

 収入が半減したのなら、本来は支出も半減しなければならない。「余生という名の無職の30年間」においては、終末期に向けた人生設計・生活設計の見直しが不可欠。「意識的に、金銭感覚・生活様式を転換することができるかどうか」が、余生の鍵だ。

「余生という名の無職の30年間」が始まる

 定年退職者に限らず、何らかの理由によって収入が半減したのなら、支出も半減しなければならない。しかし、一般に「収入が減っても、生活レベルは急には落とせないものだ」と言われる。

 たとえば、年収600万円、月収が50万円だった人が、何らかの理由で月収25万円になったとしたら、「月50万円の暮らしから、月25万円の暮らしに切り替える」という大転換が避けられない。

 ある日を境に、突然、5割の生活規模に落とすためには、スーパーで選ぶ商品から光熱水費の使い方に至るまで、意識の大転換、家計の大幅な見直し、血の出る改革が必要になる。

 ところが、誰でも長年の生活習慣や嗜好があるから、これまでどおりの生活を続けたくなる。同じ米を買うし、同じ銘柄のビールを飲みたいはずだ。それが、「普通の生活」だからだ。また、租税や医療費、交通費など、削減できない費用もある。

 しかし、こうやって、支出を減らしきれない場合は、結局、収入減との差額を虎の子の預貯金から引き出すことになる。そういった赤字は、65歳前後までは再就職などで何とか補うとしても、問題は、その後である。他の収入がない限り、無職の高齢者が年金収入だけで生活することは非常に厳しい。

 そのような収支状況では、完全退職時に収入に見合った生活に転換しても、やがて、医療費や家屋の修繕等の臨時的な経費も増えてくる。預貯金などの資産が乏しい場合は、何年も持たずに生活が破綻することは毎年の収支を計算してみればわかる。

 特に、「国民年金、または無年金の場合」、「平均的な所得のサラリーマン退職者で、妻が専業主婦だった場合」は、「サラリーマンの共稼ぎ世帯」に比べて夫婦としての年金収入総額が少ない。

 生活レベルの抜本的な見直しや転換が確実に実行できなければ、預貯金が無くなることは当然だ。近い将来、必要になる長期入院や老人ホーム入所といった高額の費用負担をまかなえなくなる。場合によっては、その前に「老後破産」を招きかねない。

長期的な家計プランは「余生の設計図」の基礎・基本

 遅かれ早かれ、年齢や健康問題などのため、誰でも働くことができなくなる。その場合、資産家ではない人は、ほぼ、「貯金と年金収入だけで生活せざるを得ない状態」に追い込まれることは確実である。現役時代の生活ぶりのままでは、よほどの資産や他の収入に恵まれていない限り、早期に老後資金を食い潰し、老後破産を招くことになる。

 家賃、光熱水費、食費等を含め、長期的展望のもとに、「意識的に、金銭感覚・生活様式を転換することができるかどうか」が、余生の鍵だ。そして、その仕組み作りは、本当の完全無職になる時期ごろまでに完成させなければならない。「長期的な家計プラン」は、「余生の設計図」の基礎なのである。

 そうは言っても、趣味や楽しみ、嗜好品を全廃してしまったら、生きていても味気ない。スポーツ、旅行など、元気なうちにしかできない事もある。車イス生活になってから、あるいは死ぬ直前になって、「あれをやっておきたかった」、「あそこに行ってみたかった」と後悔することは残念だ。かといって、老後破産は困るし、借金を遺族に残すことも避けたい。

 そこで、「これだけは」という趣味や楽しみを取捨選択しつつ、家計全体の収支バランスを計算しながら、自分なりの新たな家計プランに向かって、意識的に転換することが重要だ。嫌なことだが、老後資金が少ない場合は避けられない。

 「我が家の予算と事業計画」を立てて、できるだけ、その範囲内で生活する事が大事だ。散歩、読書や音楽鑑賞など、あまり、お金を使わない楽しみ方もあるはずだ。家庭菜園を趣味にすれば、食費の節減にもなる。

 また、多少でも働くという方法もある。70歳前後でも働いている人は意外に多い。総務省統計局の発表によると、高齢者の就業率は、65~69歳は9年連続で上昇し2020年に49.6%となり、70歳以上は4年連続で上昇し2020年に17.7%とのことだ。

 いずれにせよ、現時点で多少の預貯金があったとしても、何しろ「無収入の30年間」なのだから、その場しのぎの「どんぶり勘定」の生活では家計は破綻する。収入確保、支出削減の努力を続けないと、最後に困る結果になるかもしれない。

 「余生という名の無職の30年間」を迎えた今、意識すべきことは、「膨大な自由時間を楽しみながらも、与えられた環境の中で、いかに、人に迷惑をかけずに人生を閉じていくか」という終末期に向けた人生設計・生活設計の見直しである。この先の進路は、舵を大きく切らねば、衝突してしまうのだ。

年金生活になったら保険を見直そう

本当に困ったら生活保護を申請しよう

 令和3年度後期高齢者医療制度被保険者実態調査によれば、1年間の年金収入が80万円未満の高齢者は、1,810万人のうちの684万人(37%)もいるという。しかし、70~80歳以上になれば、働くことが難しい状況が多いうえに、そもそも、老後資金や資産が不十分な人も少なくない。

 時折、「食べるものがないので高齢者が食品を万引きした」とか、「独居老人の4割が生活苦だ」といった報道がある。実際に、「高齢者の犯罪で最も多いのは万引きだ」と言われている。我が国の現在の年金制度、社会保障制度では、「貧しさのためにパンを1本だけ盗んだ、ジャン・バルジャン」は、遠い世界の物語ではない。

 「家や預金などの資産がない、健康問題や年齢で働くことができない、年金をもらえる資格がない、親族などに経済援助者がいない」などの状況で、高齢者が、どうしても生活が成り立たなくなったら、躊躇せずに、早めに生活保護を申請することだ。もし、そういう高齢者が読者の周囲にいたら、ぜひ、上手にアドバイスして欲しい。