今の自宅に、あと何年住めるのか

家屋の修理に悩む男性

 

概要

 余生を迎えた時点で自宅を所有している場合でも、その後、30年の間には老朽化する。終生、住み続けられるとは限らない。頑丈な新築の自宅があっても、晩年は、老人ホームで迎えるかもしれない。また、高齢者夫婦だけの世帯では、いずれ、必ず、一方の配偶者と死別し、一人暮らしの「高齢者単独世帯」となって、独居老人の諸問題が生じる。
 余生の30年間を、どこの場所で、どのように生活していくのかについては、それぞれ違う。まさに、「余生の設計図」の骨格となる重要な選択だ。

我が家は30年後まで大丈夫か

 最近は、高齢者と若い世代の同居は極めて減少している。高齢社会白書によれば、昭和55(1980)年と平成30(2018)年との比較では、
   「高齢者夫婦のみの世帯」が16.2%から32.3%に倍増している
   「高齢者単独世帯」は10.7%から27.4%に急増している
   「3世代世帯」は、50.1%から10.0%に激減している。

 このような世代間の別居傾向が、高齢者を取り巻く、さまざまな課題と密接に関連している。中でも、高齢者の住宅の確保は大きな問題である。60~65歳から90~95歳までの約30年前後を余生とすれば、少なくとも、配偶者の一方は、30年間は生存している可能性が高い。

 その際、「自分または配偶者の身の置き所・家財置場として、100歳まで住めるような住宅」があれば安心だ。子どもたちとの同居が無いとすれば、自分だけで維持・確保しておかなければならない。

 ところが、現時点で多くの前期高齢者が住む、「25~30年ローンが終わったばかりの一般的な木造住宅」では、屋根・躯体・内装・配線・給排水・設備等の全面的な改修をしない限り、今のまま、あと30年、100歳まで住み続けることは難しい

100歳まで、どこに住むのか

 高齢者夫婦だけの世帯では、いずれ、必ず配偶者と死別し、一人暮らしの「高齢者単独世帯」となって、独居老人の諸問題が生じる。高齢社会白書によれば、65歳以上の一人暮らしの者は、昭和55(1980)年には男性4.3%、女性11.2%だったが、令和2(2020)年には男性15.0%、女性22.1%となっている。

 一人暮らしの高齢者は、加齢とともに、失火、健康、防犯、地震や防災、買い物、ゴミ出し、認知症、孤独死など、さまざまな生活上の懸念が、いっそう深刻になる。とりわけ、特殊詐欺、窃盗や強盗、点検商法など、高齢者を狙った犯罪は心配である。

 高齢者にとっては、防犯面だけでなく、住宅の構造や機能も重要になってくる。仮に、自己資金が十分にあって、これから新築・増改築するという機会があれば、「庭の自動車から車椅子のままで入れるスロープがある平屋」で、「バリアフリーで、寝室から車椅子のままトイレやシャワーに行くことができる屋内」、「トイレやシャワーの周辺は、汚したときに水洗いできる」といった家が理想だ。

 もちろん、「窓ガラスや床を含めて、耐震性・断熱性・防音性が高いことと、床暖房等」は必須だ。さらに、「外壁や屋根材についても、メンテナンスフリー」の住宅を建てたいものだ。高齢者は迅速な避難が難しい場合があることから、外見や装飾よりも、地震や火事の備えが万全であることが望ましい。

 しかし、これは妄想であって、実際に、老後資金の他に、自己資金で、こういう豪華な隠居住宅を新築・増改築できるような裕福な高齢者は限られているだろう。一般的には、今後、加齢とともに、大半の高齢者は、資金面でも、心身の能力面でも、新築や大規模な増改築などはできなくなる。

 かといって、子供世帯と共同でない限り、今から住宅ローンを組んで新築・増改築することは年金生活者にはできない。少なくとも、屋内や浴室等の手すりや玄関のスロープ、敷居のフラット化など、バリアフリーのための改修は避けられないが、一定の範囲で介護保険が利用できる。

自宅を所有しているが、老後資金が足りない場合

 「自宅を所有しているが、老後資金が足りない」という場合は、それを元手に、住宅と生活費の確保を図る方法が、いくつかある。

 たとえば、リースバック、リバースモーゲージなどの方式が各社から宣伝されている。いずれの方法も、それぞれ、自宅の資産価値を切り崩して老後の生活費等にあてようとする方式なので、当然、最終的に自宅は残らないという結果は共通する。しかし、相続人がいない高齢者や、相続人が親の家を継がない場合は、後に残らないので、むしろ、さっぱりとして、好都合かもしれない。

 これらの方式は、自宅の資産価値を老後の生活費として取り崩す方法のため、売買できる自宅、価値のある自宅を所有していることが大前提となる。それも、「大都市か、その近郊など、ある程度、資産価値が高い自宅」、「買い手がつくような自宅敷地」の所有者でないと成立しない仕組みだと思われる。

リース・バック(売った自宅を自分で借りて住む)

 リースバックという方式は、「まず、自宅を売り、税金や手数料を払った残金で、売ったはずの自宅を自分で借りて、家賃を払って借りて住むという賃貸契約」なので、外見上は、今までどおり、転居せず、自宅で何の変化もない生活を継続できるというメリットがある。

 ただし、家は、もう、自分のものではなく、立場は借家人だ。賃貸契約の期間は一生ではないので、生涯、その家に住むことができるという保証もない。また、物価や家賃の変動、自分の生活ぶりによっては、自宅の税引後の売却代金で、生涯、元・自宅の家賃と生活費を払いきれるかどうかも分からない。また、元・自宅と言えども、老朽化の問題は避けられないが、借家なので、勝手に改造はできない。

 採算的には事業者が有利になるように仕組まれているだろうから、安めの売却価格と高めの家賃設定になるのではないかという心配がある。住んでいるうちに、老朽化が進む家屋の塗装や設備の交換・改修を新たな大家が保障してくれるのかという問題もある。

リバース・モーゲージ(自宅を抵当に入れて大きな借金をする)

 リバース・モーゲージという方式は、「自宅を抵当(担保のこと)に借金をして、金利だけを返済するが、借入元金は累積していく仕組み」なので、外見上は、今までどおり、自宅で何の変化もない生活を継続できるというメリットがある。

 しかし、経済変動で金利が上昇した場合や借入元金が増えた場合には、金利を払いきれるかどうか分からない。やはり、採算的には事業者が有利になるように仕組まれているだろうから、高めの金利設定になる心配がある。

 また、自分の寿命が想定外に延びたり、抵当物件の自宅の価値が何らかの理由で下落した場合は、借入元金と比べて担保不足になるという心配がある。

 「別の不動産などの抵当物件の追加」ができない限りは、追加の借入が拒否されたり、清算・一括返済・解約を求められるなどの可能性があり、契約の継続も流動的になりうる。

 要するに、自宅を抵当(担保)に、自力返済できないほどの大きな借金を負うという状態だ。借入元金は、死後、一括返済できるはずもないので、売却により精算される。結局、自宅は残らない。それまでの間、土地建物は自己所有のまま、借金しているだけなので、固定資産税、家屋や設備の維持・修繕費用は、当然、自己負担になる。

普通に自宅を売る

 普通に自宅を売却して、それを元手にして、高齢者向けのケア付きマンションや有料老人ホームなどに入居する人もいる。中には、夫婦で一緒に老人ホームに入居している人もいる。

 しかし、家屋の解体撤去費用等が売買価格に見込まれることもあり、ある程度、現在の自宅の資産価値が高くないと、税引後の手取額は、それほどの金額にはならない。

 寿命にもよるが、年金額、老後資金の残高、医療費の見込みを計算したうえで、生涯、老人ホームの費用を賄えそうかどうか、検討が必要だ。

老後資金はあるが、自宅を残したい場合

同居の可能性を相談する

 高齢者と若い世代の同居は極めて減少している。2022(令和4)年の国民生活基礎調査の結果でも、65歳以上の者がいる世帯のうち、40.7%が夫婦のみ、33.7%が子と同居、21.7%が単独世帯であり、3世帯のうち2世帯は高齢者のみで暮らしている。

 こうした背景としては、就職、転勤、通勤通学の問題、住宅の狭小さなどの問題があって、親世帯と同居すること自体が地理的・物理的に難しい場合が多いと想定される。また、そうした問題がないとしても、子ども世帯からすれば、親と同居すること自体を嫌う風潮があるのではないかと思う。

 選択肢として、親子同居の可能性を検討する際には、たとえば、
 ・親子で共同・連携して、自宅を2世帯が住める住宅に改築・新築して同居する
 ・自宅を売却して、郊外など、別の場所で2世帯が住める住宅を取得して同居する
 ・敷地内や隣接地に子世代の家を建てて住む
 ・自宅を売却して、部屋が隣接するマンションを親子で購入する
といった案が想定される。

 いずれも、膨大な経費が必要になる。しかし、「親世帯が自宅を処分してしまえば、子世帯はゼロから自宅を取得することになる。それよりは、何らかの形で自宅を残してもらった方がメリットがある。親と共同作戦なら負担が減る。」と子世帯が考えるならば、選択肢となりうるのではないか。ただし、この形で同居が実現したからと言って、近い将来の老人ホーム費用や入院費用の問題が消えるわけではない。、

 なお、この同居実現のために老後資金をつぎ込んでしまっては、今後、困ってしまう。建物だけでなく、生活費まで含めて子世代に頼ることはできないとすれば、この案は、それほど、老後資金が不足していない場合にのみ活用できる。老後資金が不足している場合の親世代の生活設計としては、やはり、前述の自宅の売却といった方法も現実的な選択肢になる。

自宅を子供に売る

 実現は難しいだろうが、理論値としては、子供に自宅を売る方法もある。売るというより、正確には、「子供Aに老後資金を支援してもらう代わりに、親は自宅の売却は断念し、自宅は公正証書遺言で子供Aに相続させる」という案だ。例えば、親子間で契約や名義変更はせず、公正証書遺言に自宅の相続人として子供Aを明記することで代える。子供Aは、その代金の分割払いとして相続が終了するまで、毎月払う。

 例えば、毎月9万円ずつ20年で2,160万円になる。親は、「子供Aからの金額、自分の年金、老後資金」を加算して老人ホームで生活する。老人ホーム入居の際の連帯保証人は子供Aだ。我が家全体として、不動産業者の利益や手数料、譲渡所得の所得税、不動産取得税等々に金が流れないので、双方が得をする。親世帯の生活費も補える。

 子供Aからすれば、知らない人の土地・建物を買うのではなく、実家の土地・建物を買うというだけの違いだ。実家の資産価値が高い場合、かつ、兄弟が複数いて相続で実家が売却・分割される懸念がある場合は、建売住宅を買うよりも安い買い物であり、有効な方法ではないか。ただし、他の兄弟の立場から見た遺留分を含めた計算が必要かもしれない。

親の自宅と子供の家とを等価交換

 また、資産価値のバランスや住宅ローンの残債にもよるが、親の自宅と子供の家(マンションなど)を等価交換して、差額は現金で精算する。親は、そのマンションを売って、老人ホームに入所するという方法もあるかもしれない。親の家(実家)の資産価値が高く、かつ、兄弟が複数いて相続で実家が売却・分割される懸念がある場合に、先取りしたいのであれば、その子供にとっては有利だ。

 ただし、これらの案の実現は難しい。「親が苦労してローンで取得した家であっても、子供は無料で相続できて当たり前なのに」と考えているはずだ。しかし、大都市近郊など、地価の高い場所では、親子全体として、かなりの節約になると思う。

老人ホームに入る場合は夢を持たず、覚悟を持ってほしい

 老人ホームに入ってしばらくすると、たいてい、「もう、自宅に帰りたい」と懇願する人が多いようだが、後悔しても、その時点では、もう戻る自宅はない

 老人ホームと言っても、いろいろな種類がある。施設も費用も雰囲気もピンキリなので、自宅を売却する前に、あらかじめ、ショートステイなどで、複数の施設を体験してみることだ。

 当然だが、全員に個室がある老人ホームだとしても、それなりのルールや規律、時間割もある。どこの老人ホームでも、基本的には、毎日、3度の食事、10時と3時のお茶とお菓子、入浴なども皆と一緒だ。

 毎日、皆で、同じ場所で、一斉に同じものを食べる。時間割通りに生活する。これが、何年も続く。毎日が閉鎖された施設内での修学旅行のような感じだ。刑務所のようだという人もいる。

 老人ホームに入ったばかりの頃は、「狭い個室で独房のような拘束感」や、「飲食の内容の不満」、「外出の不自由さ」を感じたりするようだ。しかし、そもそも、老人ホームは閉所での集団生活だ、温泉旅館ではない、ということを本当に良く理解して、覚悟しておく必要がある。

 また、年齢や性格、体調のせいもあるかと思うが、老人ホームの入居者には、「集団生活が苦手そうな高齢者」も多い。特に、男性は一日中、自分の個室に閉じこもっている傾向がある。施設内の諸行事に参加したり、誰かと談話したりするよりも、自分の個室の中で一人の方が気楽なのかもしれない。

 結果として、そういう人は、見方を変えれば、引きこもりとも言える。高齢者同士や施設職員との日常の交流が上手にできず、老人ホームでの何年もの長い生活を十分に楽しめないのではないかと思う。

 しかし、それでも、老人ホームでなければ生活できないよう状態になっていく。だから、日本中で、みんな、高い金額を負担して老人ホームに入っているのだと思う。自宅を売却して老人ホームに入る場合は、夢を持たず、覚悟を持ってほしい。もう、帰る家は無いのだ。

どこで、どのように生活するかは、余生の設計図の基礎・基本

 以上の要素を踏まえたうえで、「余生を迎えた今、今後、30年間、どこの場所で、誰と、どのように生活していくのか」については、まさに、「余生の設計図」の基礎・基本となる重要な選択だ。一人ひとり、好みや性格、ライフスタイルに応じて検討する必要がある。

 その際には、今後の時間の経過、一方の配偶者の死亡、心身の老化、年金と老後資金のバランス等々を、総合的かつ慎重に検討したうえで、自分自身で決定しなくてはならない。まさに、「余生の設計図」の骨組みとなる重要な選択だ

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