運転できなくなる日が必ず来る

概要

 いかに、自家用車が不可欠の状況であっても、遅かれ早かれ、いずれ、免許証は返納しなければならない。加齢により、外出や運転ができなくなった場合の生活の仕方を準備しておく必要がある。

人を死傷させ、失意の中で人生の末路を迎えるのは嫌だ

  高齢者が運転する車が暴走して店舗や歩道に突入して大勢を死傷させたとか、車線を逆走するといった特異な事故が繰り返し起きている。日常生活は普通なのに、そういった大事故を起こしている高齢者もいるようだ。

 自分は運転は大丈夫と思っていても、「まさか、晩年になってから、人を死傷させてしまうとは・・・」という失意の中で人生の末路を迎える事態は、被害者やその家族にとってはもちろん、自分や家族にとっても、あまりに残念で残酷である。

 もちろん、加齢だけが交通事故の原因ではない。若者でも交通事故を起こすことは多い。しかし、高齢になると、誰もが年齢相応に視力、判断力、記憶力などが確実に落ちてくることは切実だ。反射神経や肢体の動作にも支障が出てくるため、とっさの対処も遅くなり、難しくなる。

 また、ふだんは正常な高齢者でも、一日に何度か、認知症のような症状を示す人もいる。いわゆる「まだらボケ(脳血管性認知症)」の人が、本人の自覚が無いまま、運転をすることがあるとしたら、恐ろしい。

 しかし、こういう事態は他人事ではない。心身の状況には個人差があるが、高齢になれば、遅かれ早かれ、いずれ、どこかの時点で運転免許証は返納しなければならない。周囲に勧告されるまでもなく、健康寿命を目途に、自動車の運転をやめる潮時を自分で判断して、運転免許証を手放さざるを得ない。

弁当の宅配、通信販売、ネットスーパーの活用

 自家用車を持っていたとしても、加齢による腰や膝の痛み、持病などのために、近所のスーパーにさえ行けなくなる高齢者もいる。

 高齢者のみの世帯で、体調等により買物が辛い場合は、必要に応じ、通信販売やネットスーパーを利用した方が良い場合がある。

 また、高齢者は転ぶと大事故になるが、広いスーパーの駐車場で重い荷物を運搬する、段差で転倒するという危険を犯さなくても済む。

 特に、最近は、雑貨品や食材等の通信販売、ネットスーパー、食材のや弁当の宅配サービスなども、いろいろと普及している。重い米や牛乳、油、トイレットペーパーなどを自分で運ばなくても済む。

 こういう配達サービスを上手に利用すれば、体調や交通手段の関係等で無理な場合でも、従来ほど外出しなくてもすむ。また、一人暮らしの高齢男性、体調が悪いとき、肢体に不自由があって調理が難しい場合などは、弁当や冷凍弁当の定期的な宅配もある。

 受け渡しの際には、一人暮らしの高齢者の状態に異変が無いかチェックし、応答が無い場合などは、あらかじめ登録した特定の人に連絡してくれる事業者もある。 

自家用車の維持費よりも、タクシーの方が安い

 運転が危うくなって、自家用車を手放した場合には、買い物以外でも、通院、床屋、冠婚葬祭などの際に、電車やバス、タクシーなどを使うことになる。

 その場合、見かけ上、毎回、それなりの費用がかかる。「自家用車なら無料だったのに」と残念に思うが、実は自家用車の維持費の方が高い。大衆的な自家用車でも、最低、毎月5万円、週に1万円の費用になる。

 たとえば、諸費用を含めた新車の車両価格が300万円とし、それを10年で乗りつぶした場合、車両本体だけで1年あたり30万円になる。

 新車から3年間ほど乗って、車検前に150万円で売却した場合でも、車両本体だけで1年に50万円になる。格安の中古車を諸費用込みで150万円で購入して、5年間使用したとしても、1年に30万円になる。

 仮に、1年間あたりの車両本体が30万円としても、そのほかに、任意自動車保険料、高いガソリン代、自動車税、自賠責保険や車検費用の1年分、駐車場代、タイヤ交換代、有料道路代、車の工賃や修理代、洗車代、雑費等々を合計すると、1年に30万円以上になる。

 車両本体と合計すると、自家用車を1台持つと、少なくとも1年間60万円以上の出費になる。毎月5万円である。もちろん、これよりも高い場合、安い場合がある。自分の場合にあてはめて、厳密に自家用車代を計算してみてほしい。そして、ひと月に何回、自家用車に乗るか考えてみてほしい。

 要するに、自家用車の維持費は非常に高い。年間60万円(毎月5万円)まで電車・バス・タクシーに乗っても損ではないはずだ。

 実際に、筆者の近隣のスーパーでも、一人でタクシーで買い物に来ている高齢者を見かける。最初、気が付いたときは、「贅沢だな」と思って少し驚いたが、近所のスーパーや医院ぐらいならば、それほどの金額にはならないと思う。

 高齢者のみの世帯などで、運転免許を持っていない人、免許証を返上した人、足腰が具合が悪い人などは、自宅まで送迎してくれるタクシーを利用する方が、安くて安全だと思う。

 また、自家用車の維持費など気にならないという富裕な人でも、視力が衰えたり、杖や車イスに頼るようになったりすれば、結局、自家用車での外出は難しくなる。やがて、そういう状況になれば、介護タクシーに頼るしかない。

 要するに、加齢のため、全員が、遅かれ早かれ、自家用車をあきらめざるを得ない日が来る。とりわけ、「視覚や肢体に不自由がある場合」、「年金以外の収入が無く、かつ、十分な資産がない場合」などは、早めに自家用車を処分することが必要になる。 

運転できなくなった後、どう生活するのか

 全国には、電車はおろか、バスもタクシーも無い地域もある。地点間の距離が遠く、自家用車がないと普通の生活ができない地域もある。

 また、身体の具合のせいで、床屋や病院、隣近所に回覧板を持って行くにも自分で運転せざるをえないという人もいる。高齢者のみの家庭のため、家族の通院や介護などのために自家用車が不可欠という人もいる。

 このため、前述の経済性や運転のリスクだけでは割り切れない部分で、実際に自家用車を廃止するかどうかは、最終的には各自が判断するしかない。

 ただし、いかに、自家用車が不可欠の状況であっても、「遅かれ早かれ、いずれ、免許証は返納しなければならない」、「いつか、必ず、運転できなくなる日が来る」ということは肝に命じておく必要がある。

 このため、「自家用車が不可欠な高齢者のみの世帯」では、加齢により、運転できなくなった場合の生活の仕方を準備しておく必要がある。

 運転できなくなったことで、日常生活には大打撃だろうが、おそらく、その頃には、家事や身の回りのことも不自由になって、高齢者のみの世帯で暮らすこと自体が不都合になってきているに違いない。

 さらに、一方の配偶者の入院、施設入所、逝去などにより、いずれ、必ず、独居老人(高齢単身者)になることも想定しておかなければならない。

 実例では、たとえば、「親族と同居した」、「年金と貯金をもとに老人ホームに入所した」、「自宅を売却して、夫婦でケア付きマンションや有料老人ホームに入った」という知人がいる。もちろん、「最後まで一人暮らしを続けた」という人もいた。

 こういった身の振り方は、人のまねをしてもうまくいかない。それぞれの状況が違うので、それに応じて、まさに自分なりの「余生の設計図」を、あらかじめ作っておき、それに向かって今から準備を進めることが必要だ。